親子愛をテーマにした短編集「親と子の感動の物語 あいうた」と、上間綾乃 さんが歌う「あいうた」との関連秘話など全てを語る特設サイト

エピソード22

 

似 顔 絵


 

 

 

 

私と主人が出会ったのは某美術大学のキャンパスでした。
主人は当時、油絵を選考していて、私の2年先輩にあたりました。
彼の絵の才能はなかなかのもので、私は密かに
「有名になるのでは?」と思っていました。

 

 

付き合いだして1年が経った冬、主人の父が病気により他界。
当時3年生だった主人は画家への道をあきらめ、退学し、実家の小さな町工場を次ぐことを選びました。

 

 

それからも付き合いは続き、7年の交際を経て結婚。
2年後には長男にも恵まれました。

 

 

長男は夫の強い希望で健太と名付けました。
「健康に育って欲しい。」
早くに父を亡くした主人にとって、それだけが望みでした。

 

 

傾きかけた小さな町工場を懸命に維持しながら、主人と、私と、健太と、主人の母の4人家族は、それなりに幸せな毎日を過ごしていました。

 

 

健太は4歳になるとキャッチボールがしたいと言い出しました。
運動が得意ではない主人も、健太に野球を教えてやる!
と野球の本を読みあさり、ビデオを見て研究しだし、
休みの日には公園で二人楽しくキャッチボールをしていました。

 

 

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健太はやさしいパパが大好きで、工場についていくこともしばしばでした。
工場の奥に資材をおく小さな部屋があり、そこに勝手に入ろうとした時に
「勝手に入っちゃだめだ!ここは危ないんだから!」
と入れてもらえず、おこられた時意外は、1度も怒ったところを見たことが無い、私から見てもとっても優しいパパでした。

 

 

 

しかしそんな幸せも長くは続きませんでした。

 

 

 

健太が5歳になる頃から主人は体調を崩す日が多くなってきていて、
「お義父さんのこともあるから1度検査に言った方がいい」
と私と義母は言葉をかけていました。
しかし、30代という年齢と、工場の忙しさを理由に、
「40歳になったら受けるから大丈夫だよ」といつも流されていました。

 

 

 

それから半年が過ぎたころ主人は吐血と激しい腹痛に倒れ、病院にかつぎ込まれました。

 

 

 

 

 

末期の肝臓がん。

 

 

 

 

持って半年との診断でした。

 

 

 

義父とまったく同じ病気でした。
私と義母は涙も出ず、ただただ呆然と立ち尽くしていました。

 

 

 

告知をすべきか否か。

 

 

 

以前義父の話になった際、自分は告知して欲しいと言っていたのを思い出し、私と義母は告知を選びました。
先生が告知してくれるとの申し出もあったのですが、私が告げますと断りました。

 

 

病室に入り、主人をみていたら涙が止まらなくなり言葉を出せずにいると、

 

 

 

「がんなんだろ?親父と一緒か。遺伝かな。」

 

と、主人がとても穏やかに話し始めました。

 

 

 

「しかし親父も言ってたけど、わかるもんだな。もう長くないんだろ?」

 

「あとどれくらい生きられんの?」

 

 

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「半年だって。」

 

 

 

 

「半年か。」

 

 

 

 

主人の目から涙がこぼれ落ちました。

 

 

「健太には内緒にしてくれよ。」

 

「もうキャッチボールできねーなー。」

 

 

その言葉に、3人抱き合って泣きました。

 

 

 

 

 

それから1日でも長く生きる為の入院生活が始まりました。

 

 

家に帰ってこず、病院でやせていくパパをみて、健太は悲しそうな顔をして

 

「どうしてパパはかえってこないの?パパとキャッチボールしたいよ。」
というと義母が、

 

 

「大丈夫よ。健ちゃんがいい子にしてたらパパすぐにかえってくるわよ。」
と答えました。

 

 

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「本当!わかった!僕いい子にするよ!ご飯も残さないし、おかたずけもするよ!」
輝くような笑顔をみて私は涙をこらえるのに必死でした。

 

 

 

2ヶ月が経った頃幼稚園の先生から連絡がありました。
「健太君最近ずっと元気が無くって。気がつくと泣いてることが多いんですよ。
理由を聞いてもずっと答えてくれなかったんですが、
やっと今日答えてくれまして。

 

 

『僕がいい子じゃないからパパがお家に帰って来れないの』

 

『頑張っていい子にしてるんだけどまだかえって来れないの。』

 

っていうんですよ。」

 

 

私は受話器を持ったまま泣き崩れました。

 

 

家ではとても明るく元気に振る舞っていた健太が、毎日そんなことを考えて隠れて泣いていたなんて。
私は幼稚園の先生に理由を説明し、協力してもらうようお願いしました。

 

 

それからも、幼稚園での七夕の短冊も夏休みのお願いノートも健太のお願いはいつも

 

 

「いい子にするのでパパをお家に帰してください」でした。

 

 

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一方病室では、主人がこんなことを言いました。

 

 

「献体って制度があるらしいんだよ。俺それに申し込もうと思ってさあ。
死んだあと燃やす前に死体を大学病院にまわすんだよ。

 

で、研修医とかの実験材料になったりするらしいんだ。
それにはお前のサインがいるからこれにしといてくれよ。
健太の為にしてやれることなんてもうそれぐらいしかないからな。

 

あいつにも遺伝するかもしれないじゃん?
そん時に俺の体で実験した先生が治してくれるかもしれないじゃん?
まあそんな偶然は無いだろうけど。
あいつには長生きしてもらいたいんだよなー。」

 

 

 

どうして神様はこんな二人に悲しい思いをさせるんだろう。私はただただ泣いていました。

 

 

 

 

 

 

2ヶ月後、優しかった主人は36歳の若さでこの世を去りました。

 

 

 

 

そして震える指で健太への手紙を残していました。

 

 

 

 

 

 

 

       けんたへ

 

 

ひとはみんな いつか おほしさまに なるんだって 

 

まえに はなしたことがあったの おぼえていますか?

 

 

パパも おほしさまに なることになりました

 

 

でも かなしがることはないよ。
パパは いつも そらから けんたを みまもっています。

 

 

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さて、おほしさまになる パパから 
けんたへの おねがいが2つあります。

 

 

 

ひとつは ずーっとママとバァバと なかよくしてください。

 

ママとバァバがつらいときは 
けんたが かめんライダーみたいに まもってあげてください

 

けんたは おとこだもんな! 

 

 

 

もうひとつは けんたがおおきくなって

 

だれかとけっこんして こどもができたら、

 

こどもといっぱい あそんで あげてください。

 

 

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こどもが おとこのこだったら 
キャッチボールとか たたかいごっことか いっぱいして、

 

 

おんなのこだったら えほんとか 
いっぱいよんであげてください。

 

 

パパは けんたと あまり あそんであげられなかったから。

 

 

 

いままで さみしいおもいを いっぱいさせて 
これからも さみしいおもいを いっぱいさせて 

 

ほんとうに ごめんね

 

 

 

 

パパのじんせいで いちばん うれしかったことは 

 

パパとママのこどもとして 
けんたが うまれてきてくれたことです。

 

 

 

パパはこれからもずーっと けんたが だいすきです。   

 

 

 

 

パパより

 

 

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手紙とともに一本の鍵が入っていました。それは工場の資材置き場の鍵でした。

 

 

 

 

私と健太は工場へ行きました。鍵を開けようとすると

 

「ママここは危ないからあけちゃ行けないってパパ言ってたじゃん」

 

と私の手を止めようとしました。

 

 

 

「でもパパが鍵をくれたんだから大丈夫よ。もしかしたらなんか健ちゃんにプレゼントがあるかもよ?」

 

 

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といってドアを開けると、

 

 

そこには壁一面に描かれたとても美しい町の描きかけの絵がありました。

 

 

 

描かれたその町は私たち家族が暮らした町で、
HAPPY BIRTHDAY と大きく描かれていました。

 

 

健太の6歳の誕生日までに描き上げるつもりだったのでしょう。

 

 

壁の真ん中には公園があり、パパと健太がキャッチボールをしていて、
私と義母がそれをベンチでみています。

 

 

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「健ちゃん。パパ絵うまいねー。」

 

「うん。すげーうまい!僕も絵描く!」

 

 

 

 

 

帰宅後、息子が描いたパパの似顔絵は人の顔には見えないけれど、
愛情がたっぷり詰まった、主人の絵にも負けない最高の絵でした。

 

 

 

 

 

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「親と子の感動の物語 あいうた」
〜全国から寄せられたエピソード25〜

 

 

 

 

 

 

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